イライラする認知症の方の対応と介護者の工夫

イライラする子供 認知症

認知症という言葉が世間に浸透して

年月がかなり経ちました。

 

また当たり前のように80歳、90歳を超えて、

お元気で過ごされている方も

昔に比べて多くなりました。

 

それに伴い例外の方も中にはいますが、

多くの場合、年齢とともに記憶があいまいになったり

理解力が低下したりしていくものです。

 

昔からあったことなのに、

なぜ今、こんなにも「認知症」という言葉は暗い・辛い・嫌なイメージ

先行しているのでしょうか?

 

介護老人福祉施設で10年以上勤めている筆者は、

自宅・施設・病院等の場所に関係なく、

認知症の対応をしている当事者が、

困ったり辛かったりすることが多いことが、

一番の原因なのだろうと思います。

 

認知症は、長年様々なケア方法が考えられ、

日々新しい技術が発信されています。

一方でその方法が合う方・合わない方がいるのも事実です。

 

これは認知症の暗いイメージ、

いわゆる周辺症状に影響することが、

その方が持っている性格や環境などの影響が大きいためです。

 

ここでは認知症という病気と

その対応について、参考にして頂きたいことを書きます。

 

中核症状って何?

記憶 写真

認知症には中核症状周辺症状という

二つの症状があります。

 

中核症状とは

『5分前の会話を覚えていない』

『30分前に食事を食べたことを覚えていない』

などの記憶障害

 

『箸の使い方が分からない』

『服の着方が分からない』

などの失行

 

『言葉が理解できない』

『言葉が出てこない』

などの失語

 

『目は見えているが物を正しく認識できない』

などの失認

 

『今いる場所がどこなのか分からない』

『今が朝か夜か分からない』

『目の前にいる人が誰か分からない』

などの見当識障害

 

これらを代表する症状は、

認知症になれば必ず現れる症状のことです。

 

中核症状は、脳梗塞などによって脳にダメージが加わったり、

加齢による脳の萎縮で脳の機能が低下したりすることで

起きると言われています。

 

生活習慣等で予防したり、

発症してからその進行を遅らせる薬がありますが、

現状では完治させることは難しいと言われています。

 

周辺症状って何?

老夫婦 関わり方

周辺症状とは、脳の機能低下によって現れた中核症状により、

様々な支障が出た際、

ご本人の性格や周辺環境によって現れる症状のことです。

 

同じような記憶障害、見当識障害が現れた場合でも、

もともとその方が持っている気質や性格によって、

日常生活に大きな影響が出る場合とそうでない場合があります

 

例えば、元々小さなことは気にならず、

何でも笑い話にしてしまう社交的なAさんという方と、

元々落ち込みやすく小さなことも気にしすぎてしまうBさんと

いう方が居たとしましょう。

 

二人は認知症を発症し、

記憶障害によって火の消し忘れや

知人との約束を忘れてしまうことを繰り返すようになりました。

 

Aさんは「最近ボケちゃってだめ。この前もこんなことがあったのよ!」

と家族や知人に笑い話として自分の失敗を話し、

それを聞いて心配した家族が在宅介護サービスの利用ができるように

Aさんと相談し、

社交的なAさんは、時折来る訪問ヘルパーやデイサービスでの

人間関係を楽しみながら、在宅生活を続けることになりました。

 

Bさんはというと、自分の失敗を気にするあまり鬱傾向になり、

自宅へ引きこもりがちに。

Aさんと同じく家族が在宅介護サービスの利用を検討しますが、

ヘルパーやデイサービスを利用してみても、

小さなことが気になり中々利用が継続できず、

さらに引きこもりがちとなったことで下肢筋力も低下。

自宅で転倒をしているところを見つかることが繰り返されるようになりました。

 

少し極端なお話を挙げましたがが、

このように元々持っている性格に影響を受けるのが周辺症状です。

 

性格以外にも、周りの人の関わり方、

特に介護者の関わり方が適切でない場合も、

周辺症状が悪化することはよくあることです。

 

トイレの失敗や、同じことを何度も聞くことに対して

叱ったり、責めたりするような関わり方をされることで

傷ついて落ち込んだり

逆上して暴力等に発展してしまうケースもあります。

 

逆に言えば適切な関わり方をすることで、

不要な周辺症状が出現しなくなることもあります。

 

認知症の方との関わり方

ベンチに座る老夫婦

とは言え、実際に認知症の方と関わるのは、

介護を仕事としているプロの介護職員であっても、

かなりのストレスとなることが多いです。

 

在宅介護を無償でしているご家族などは、

終わりが見えない24時間の対応で

さらに強いストレスを感じることがほとんどではないでしょうか?

 

周辺症状の説明でお伝えしたように、

その方によって症状の原因や現れ方が違うため、

この対応をすれば必ず解決する!

という方法はないと言えます。

 

ただし、その方に合った対応を考える上で、

押さえておくべきポイントと心構えを知っているだけでも、

ストレスの軽減になると思いますので、

ここでは3つに絞ってご紹介します。

 

否定しない

否定 NO

第一に否定しないことです。

認知症になった方は、記憶障害や見当識障害などによって、

事実と違うことを訴えることが多いです。

 

食べたはずの食事を「食べていない」と言ったり、

自宅に居るにもかかわらず「家に帰ります」と出ていこうとしたりします。

 

ご本人の視点から考えてみると、

記憶障害によって食事そのものの記憶がなくなっているため、

食べていないと言っただけです。

 

見覚えのない家に居るから帰らなければと不安になって、

とりあえずその場を離れようとしているのかもしれません。

 

そのような場面で、

「さっき食べたでしょう!」「ここがあなたの家でしょう!」

と否定したり叱ったりしたら、どのように感じるでしょうか?

 

また、目の前に居る介護者のことを誰だと思っているかによっても、

不安感や苛立ち具合が変わってきます。

 

そのため介護者は、事実と違う訴えをした本人が

その瞬間に自分自身・介護者・日時・場所・状況などを

どのように捉えているかを探る必要があります

 

探るためにはコミュニケーションをとる必要があり

大前提として否定しないことが必要になるということです。

 

食事を食べていないと言ったのは、

お腹が空いたからなのか、

食事時の時刻だと思っているのか、

場所が食事を提供してもらうような場所だと思っているのか?

 

聞き出すためには、

例えば「今、お腹が空いていますか?」と聞いてみます。

 

認知症が進行して常時空腹感があり、

「ぺこぺこだよ!」

と答える方もいれば、

(実際は食べた直後なので)「お腹は空いていないけど…」

と答える方もいるでしょう。

 

答えをヒントにして、

その方が本当に訴えたいことは何なのかを、

話しながら探っていくのです。

 

空腹感があるなら「食事を食べていない」という訴えは否定せず、

「これから食事を準備するから、待っている間お茶とお茶菓子でも…」

と、おやつ程度のものを提供してみるのもいいでしょう。

 

「お腹は空いていない」との答えなら、

本当に訴えたかったことは何か、

もう少し探る必要があるかもしれません。

 

なんとなく不安で話し相手が欲しいのか、

実はトイレに行きたいのに

それを適切な言葉で伝えられないのかもしれません。

 

このように否定しないことで、

ご本人が認識している世界観をつかみ、

話を合わせることで

落ち着いて過ごしてもらうことができる場合もあります

 

同時にこうしたポイントに注意して会話をしようとすると、

介護者側も冷静に受け答えができるようになります

 

素の自分で接しない

キャリアウーマン2人

第二のポイントは、介護者は素の自分で接するのではなく、

認知症の方の世界観に登場する登場人物として接する

ということです。

 

どんなに大切な家族が相手であっても、

認知症という病気や、

対応方法の注意点が分かっていても、

人間は感情のある生き物です

 

一日に何十回何百回と同じ質問をされたり、

事実と違う訴えで問い詰められたりし続けることは、

ストレスとなります。

 

その度に、素の自分として対応していては、

冷静な受け答えが出来なかったり、

認知症の方ご本人の世界観に合わせられなかったりします

 

感情的な受け答えや、

ご本人の世界観を否定するような対応をすると、

さらに混乱させることになり、悪循環になります

 

笑顔で接する

笑顔の男性

第三のポイントは、笑顔です。

 

認知症の方の多くは、

進行とともに言語的なコミュニケーションが

困難になっていく傾向にあります。

 

人間のコミュニケーションは、

言語・非言語のコミュニケーションに分かれますが、

言語的コミュニケーションが困難になると、

非言語コミュニケーションに頼らざるを得なくなります

 

どんなに優しい言葉をかけていても、

表情が見えなかったり、

険しい顔をしていると、

「怖いな」「嫌だな」という印象が上回ってしまいます。

 

逆にさほど言葉が多くなくても、

にっこり笑って、目線の高さを合わせてうなずいてくれるだけで、

何となく安心できる人だと認識してもらえる可能性が高くなります

 

まとめ

長寿が当たり前になった現代において、

認知症は誰もが発症する可能性のある病気です。

 

適切な理解と対応をすることで、

ご本人も介護者や家族も、

穏やかに暮らせる可能性があります。

 

介護者として忘れてはいけないことは、

一番辛くて不安な思いをしているのは、

ご本人であるということです。

 

介護者が憎くて、

いじわるしようとしている訳ではないということ、

また人生には必ず終わりが来ることを忘れずに、

寄り添える介護者が増えることを願います。

 

ただし、介護者が倒れてしまっては元も子もありません。

 

一人で抱え込むことが無いよう、

介護サービスの利用や他者への相談も必ず視野に入れ、

みんなが幸せになれる方法を考えてくださいね。

タイトルとURLをコピーしました