最近、「看取り」「看取り介護」という言葉を
耳にしたことがある方は増えたのではないでしょうか?
日本老年医学会によると、
終末期の定義は
「病状が不可逆的かつ進行性で、
その時代に可能な限りの治療によっても
病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり、
近い将来の死が不可避となった状態」
のことです。
高齢者の多くは病気や障害を複数併せ持っており、
暮らしている環境や家族との関係性などによっても
様々な影響を受けやすく、
単純に余命の具体的な期間を設定することは
難しいとされています。
特別養護老人ホームなどの施設で行う看取り介護でも、
看取り介護が開始となってからお亡くなりになるまでの期間は
本当に人それぞれです。
無理な食事や水分補給をしないことで、
穏やかに過ごせる期間が長くなる方も居れば、
看取り介護が開始となった数日後には
お亡くなりになる方もいます。
ここでは普段考える機会が少ないにも関わらず、
誰もが直面する可能性のある「看取り」について
イメージをお伝えします。
看取り介護開始まで
「看取り介護」「ターミナルケア」などと呼ばれる、
終末期のケアが必要な状態が訪れたかどうかを
判断するのは医師になります。
ご本人の様子、食事摂取状況、水分摂取状況、
排泄状況、血圧などのバイタルサイン、
血液検査などで分かる栄養状態など、
様々な面から判断されます。
終末期であると判断されたら、
ご本人の意思の確認ができれば
この先どのように過ごしたいか
ご本人の意思を確認します。
ご本人の意思が確認できない場合は、
家族がご本人の意思を推測するという形で、
どのような選択をするかを考えます。
胃ろうなどの人工栄養等を含む、
医療行為を積極的に選択していく方も居れば、
痛みや苦痛を取り除くこと以外の
医療行為はしないという選択をする方も居ます。
どちらにせよ、その方にとって
その後のQOL(Quality of life=人生の質)が
低下しないかどうかが重要なポイントになります。
介護施設においてはまず、その施設が
看取り介護の対応・受け入れをしているかどうかによって
状況が変わります。
近年看取り介護を行っている施設は増えましたが、
人員配置や仕組みづくりなどを理由に
看取り介護は実施できない=終末期で看取り介護を希望する場合は
対応可能な別施設へ転居する必要がある
という施設もあります。
看取り介護に対応している施設であっても、
それぞれの施設によって
対応できること・出来ないことは異なるため
細かな説明を受けることになることがほとんどです。
体制に違いはあれ、
介護において看取り期に重要なのは
「特別な何かをする」ことではありません。
今まで通りの暮らしを、
衰弱して変化していくご本人の様子に合わせて
苦痛を出来る限り取り除きながら続けていくことです。
とはいえ、自分の人生もしくは親や家族の人生について、
先伸ばしするのか?
ある意味傍観する(=早めると捉えることも出来る)のか?
を決めることは簡単なことではありません。
また、特殊な状況、
たとえば医療従事者や介護従事者が家族に居る等でなければ、
なかなか家族内での死生観について
話をする機会も少ないでしょう。
ですが、終末期であると医師が判断する状況とは、
長い時間かけて、今後についてどうするか
検討する猶予がないことの方が多いと言えます。
介護施設で多い場面としては、
水分や食事が進まない状態が常態化していることを
主な理由として、
終末期であることから
「今後についての意向を家族へ確認する必要がある」
と医師から話があるというパターンです。
このような場合、
必要な栄養や特に水分がとれていない状態が
すでに継続しており、
ご本人の状態が
これから再び食事や水分をとれるようになるのは
困難であるということになります。
低栄養状態は多くの場合、
数日で突然命に関わるという可能性は低いと言えますが、
水分については違います。
数日全く水分がとれない場合、
脱水症状から発熱したり
脳梗塞などを起こして急に容体が変化することも
少なくありません。
つまり、これからの人生について
数日で結論を出さなければならない
ということになりかねません。
終末期を迎えた時、
前もってご本人の希望を確認したり
家族間で話し合ったりできていれば、
いざ終末期の過ごし方について選択を迫られた時、
残された時間を決断するために使うのか、
ご本人や家族の望む暮らしのために使うのかが
変わってくると言えるでしょう。
具体的なケア
看取り介護を選択した場合、
具体的にはどのような暮らしになるのか、
介護施設での看取り介護の一例をお伝えします。
看取り介護について、ご本人・家族に同意を得た日から
看取り介護が開始となります。
同意を得る際には、
どのような希望があるか出来る限り聞き取りをします。
好きな音楽・TV・香りなどの趣味・好み、
どのようなケアを希望するか?
例えば
「話好きでさみしがりやなので、こまめにたくさん声をかけてほしい」
「静かに過ごすのが好きなので、静かな環境にしてほしい」
などです。
飲食については、ご本人の状態に合わせて提供します。
起きている時間が短くなったり、
時刻に関係なくなる方が多く、
食事や水分が何らかの理由で進まない
(ご本人が口を開けない、嚥下機能の低下など)
ことで終末期となることも多いため、
栄養を摂ることを目的とした食事ではなく、
ご本人が食べられる形状で、
おいしいと思えるものを無理なく提供することになります。
一日にプリン一個を少しずつ食べる方も居れば、
通常の食事を3割ほどずつ食べるという方も居ます。
呼吸状態に変化が出るようになると
そうした少しずつの飲食も困難になるため、
口腔内が乾燥しないように
口腔ジェル等で口腔ケアをするのみとなっていくことが多いです。
それ以外には、
体を動かすことが難しくなることが多く、
褥瘡(床ずれ)のリスクも高まります。
また、人によっては体に痛みが出る方も居るため、
定時や希望に合わせて、体位交換を行う必要があります。
また、飲食量が低下するため、
皮ふが乾燥したり、血液循環が悪くなることで
浮腫(むくみ)がひどくなるなど、
皮ふ状態がぜい弱化することも少なくありません。
乾燥予防に保湿をしたり、
ケガをしやすいため傷を作らないように、
体の触り方や衣類のしわがないか、
ベッドで硬いところにぶつかる可能性はないかなどを
注意する必要があります。
まとめ
食事・水分量の確保について、
積極的に働きかけていくかどうかについては、
終末期とそうでない時期で変わることが多いと言えますが、
それ以外については、
上記の対応は終末期であろうとそうでなかろうと同じです。
介護を仕事としている介護職員であっても、
「“看取り”だから何かしないと…」
「急変したらどうすれば…」
「病院に行かなくていいの?」
と不安に思う人もいます。
しかしながら、
「最期の日がいつきてもおかしくない状態だから、少しでも穏やかに暮らす」
のが、看取り介護の目的です。
何か対応に悩むときは、
それはご本人の苦痛を減らすことになるのか、
穏やかな暮らしに繋がるのか、
(望んでいるのであれば)家族との時間を少しでも増やすことになるのか
というものさしで検討してみてください。
私たちは医療の進歩で、漠然と
「病院に行けば治る」
と考えがちですが、
現代の技術では不老不死にはなれません。
そして、だからこそ大切に出来ることもあるのではないでしょうか。
さみしいけれど、いつか別れる日がくるからこそ、
自分や家族を大切にできるとも言えます。
生きている限り必ず死が訪れるということを、
何の変哲もない日常のうちにゆっくり考える機会を持ち、
それまでの人生や今の暮らしは、
なかなか良いものだったなと思えるように、
一日いちにちを過ごしていける人が増えることが、
死が目に見える形になった時に
慌てたり後悔したりする人が減ることになるのではないでしょうか。
その人らしく生き、
病気や障害を抱えながら高齢になっても
その人らしく最期の日まで生き抜ける
「看取り」が少しでも増えることを願います。