“介護”という言葉を聞いて、
食事の介助をされている要介護者の姿を
思い浮かべる方は多いのではないでしょうか?
食事とは介護が必要であっても無くても、
人間の暮らしにとって様々な面から大切な意味があります。
私たちは栄養を取らなければ生きていけませんが、
食事の意味とは栄養さえ取れればそれでいいのかというと、
それだけではありません。
誰と食べるのか、何を食べるのか、どんな気持ちで食べるのか…
栄養以外にも大切なことはたくさんあり、
さらに人によって大切にしたいことも違います。
高齢者は特に様々な理由によって、
食事がだんだんと食べられなくなる方が多いです。
そんな時、どんなことに気を付けて介護にあたると
その方にとっておいしい食事になるのかを
ここでお伝えします。
食事のメカニズム
健康な人は毎日、当たり前のように食事をしています。
食事という行為を大まかに分けると
- 空腹を感じる
- 食べるものを用意する(認識する)
- 食べるものを口へ運ぶ
- 噛む
- 唾液と混ぜてひと塊にする
- 口の奥へ送り込む
- 飲み込む
改めて整理すると、どれも意識せずに行っている方が
ほとんどではないでしょうか?
ところが認知症やその他の病気や障害の影響で、
この工程のどこかに支障が出ると、
食事自体が困難になってしまうことが多いです。
食事に介助が必要になった場合、
この工程のどこに支障が出ているのかを観察することで、
適切な介助方法を見つけることができる可能性が高まりますのでご紹介します。
なぜ食べられないのか?
高齢の方に多いのは「空腹を感じる」 が
そもそも起こらないというパターンです。d
その理由も様々ですが、筋力低下や意欲低下により、
活動量が減ることで、お腹が空かないということが多いでしょう。
また、看取り期が近づいていることで、
「お腹が空かないから食べられない」のではなく
「身体に必要がないからお腹が空かない」という可能性もあります。
看取り期の判断は医師にしか出来ないため、
そのような様子が見られる場合は医師へ相談することも一つの方法です。
食べ物の用意(認識)が困難になる
認知症の方だと「空腹を感じる」に加えて、
「食べるものを用意する(認識する)」ことが困難になる
パターンも多く見られます。
在宅生活をしている方や独居の方だと、
お腹が空いても調理や買い物が一人で出来ない、
食べ物を食べ物として認識できない
(もしくは食べられないものを食べ物だと認識してしまう)
という困りごとが発生することも多いでしょう。
施設等でしっかりと食事が提供されたり、
介助者が口まで食事を運んでも食事と認識できなければ、
口を開けて「食べる」という行為が出来ず、
やはり食事をすることは困難になります。
食べるものを口へ運ぶことが出来ない場合
「空腹を感じる」、「食べるものを用意する(認識する)」に問題が無くても
「食べるものを口へ運ぶ」が出来ない場合は、
道具の活用や介助で解決できることがあります。
多くは筋力の低下や麻痺などの障害による影響で、
箸やスプーンなどが上手く使えなくなり、
食事動作に支障が出ています。
力が弱くても握りやすい太めのスプーンや、
細かい角度調整が出来なくてもすくい易い“返し”のある器など、
道具を変えるのも一つの方法です。
また、テーブルや椅子の高さが本人の体格と合っているか、
本人の姿勢が崩れていないかもポイントになります。
高齢者には小柄な方が多く、
一般的なダイニングテーブルや椅子は、
高すぎたり座面の奥行きが長すぎることが多いです。
足の裏がしっかりと床についていない、
浅く腰かけてのけ反るような姿勢になっている等があると、
座っている姿勢が安定せず食事動作にも影響が出ます。
理想的な姿勢は?
飲み込む機能に問題がない場合、
足首・膝関節・股関節が90度になっているかどうか、
本人の正面から見て左右に傾きが無いかを確認してみましょう。
足台の使用も検討
足首が90度になっていなかったり、膝関節が90度になっておらず、
足が床にしっかり着かない場合は、足台などを利用します。
足台は滑ったり簡単に動いたりしなければいいので、
丁度よい高さになるように雑誌を何冊か重ねて固定し、
滑り止めマットなどを敷くなどすれば手作りも可能です。
ただし、認知症等で判断能力が低下している、
歩行が不安定など転倒の可能性がある方は、
足台に足を乗せたまま立ち上がろうとすることが無いか
などに注意して使用しましょう。
股関節が90度にならない場合
股関節が90度になっていない場合は、
上半身が前方もしくは後方に倒れてしまっていることが多いです。
前方に倒れ気味の場合は、
座面前方(太ももの下)にバスタオルなどを畳んで入れる、
後方に倒れ気味の場合は、
背もたれと背中の間にクッションやバスタオルを畳んで入れる
などすると、安定することが多いため試してみましょう。
上半身が倒れ気味になるのは、座っている時間が長く疲れてしまっていたり、
座面にクッション性がなく痛みを分散させたいために
起こっていることがあるため、その点にも注意してみましょう。
噛む能力や飲み込みに支障が出ている場合
まず、口の中の状態が正常かどうかを確認する必要があります。
ご本人の歯の状態(虫歯・ぐらつき・欠損・痛み等)、
唾液の分泌(少なすぎる・多すぎる)、
義歯を使用している場合は義歯が合っているかなどを確認してみましょう。
認知症などにより、ご自分で不調を訴えられない場合、
こうした口腔内の状態によって食べることが嫌になっていることも多いです。
歯自体に問題がなく、噛む力が弱くなっている場合は、
食事の硬さを見直したり、介護用のレトルト食品などを活用してみるといいでしょう。
飲み込みの認知症の影響を受ける?
また、「唾液と混ぜてひと塊にする」、
「口の奥に送り込む」という工程についても、
認知症の影響で上手くいかず
途中で止まってしまうことも少なくありません。
食事介助が必要な方の介助全般に言えることですが、
食事前にしっかりと口腔ケアをすることで
口腔内のマッサージにも繋がり、
食事途中で止まってしまうことを予防することができる場合もあります。
食事の姿勢の大切さ
口の奥に送り込むという動作については、
ベッドや車いすのリクライニング機能を使って、
食事の姿勢で解決できる場合もあります。
しかし、誤った状態で介助することで誤嚥や窒息に繋がる場合もあるため、
医療従事者へ相談し、アドバイスをもらうようにしましょう。
飲み込みについても、普段から行える口腔体操や口腔ケア、
食事の際の姿勢を工夫するなどの方法がありますが、
自己判断で行うと誤嚥や窒息に繋がる場合もありますので、
必ず医療従事者へ相談しましょう。
相談する際に伝えるポイントとしては、
・何を飲み込んだ時にどのようなタイミングでむせ込んだか
・トロミ剤を使用している場合はどのくらいのトロミをつけているか
習慣や嗜好の影響
食事の工程ごとに考えると、
前述のような注意点がありますが、
それ以外にも大きな影響があるのが、その人それぞれの習慣や嗜好です。
朝食は食べない、飲み物は熱い日本茶が好きなど、
介護が必要になると、
それまでの習慣や好みにまで配慮が行き届きにくくなりがちですが、
意外と影響を受けやすいものです。
一方で、昔からこれが大好きだからと用意したものが、
現在の食事能力や味覚に合わなくなっているという場合もあります。
大切なのは、食事が進まない時、
様々な面からその理由を考えるということです。
まとめ
食事は生きるために必要不可欠なものであり、
誰もがおいしく、楽しく食べたいと思っているものでもあります。
具体的な方法を挙げてご説明しましたが、
これ以外にも「食べてみようかな」と思えるよう、
介助者の声かけの工夫も大切です。
「食べないと元気が出ないよ」
「もう少し食べて」
など、
食事量が減ると心配なあまり、
このような声をかけがちです。
しかし毎日何度も食べる食事の場面で、
毎回このような声をかけられては楽しい食事ではなくなってしまいますよね。
食べたいものは無いか聞いてみる、
食べたくなければ無理する必要は無いと伝えるなど、
その方を思いやる言葉があるだけで
「少し食べてみようかな」と思える方も少なくありません。
介護が必要になっても出来る限り
「おいしく食べたい」「楽しく食べたい」
という気持ちに寄り添えるよう、
ご紹介したポイントを参考にしていただければ嬉しいです。